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『恋に至る病』映画レビュー|初恋か、殺人か。恋に至る病実写化“純愛サスペンス”

アイキャッチ_恋に至る病

はじめに:胸を締めつける恋と疑惑-高校生の“隣り合う二つの感情”

2025年10月24日(金)全国公開の映画『恋に至る病』は、内気な男子高校生と、クラスの人気者の女子高校生が出会い、恋を紡いでいく中で、突然巻き込まれる“同級生の不審死”と“恋人への疑惑”というミステリアスな展開を併せ持つ実写映画です。

監督には『月の満ち欠け』で第46回日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した廣木隆一。原作はミステリー小説家としても著名な斜線堂有紀による同名作品。W主演は、ジャニーズグループ「なにわ男子」の長尾謙杜と、実力派女優・山田杏奈。

単なる“青春恋愛映画”ではなく、恋心と疑念が交錯する“ピュアで刺激的なラブストーリー”として、観る者にどこか居たたまれない高揚と不安を同時に感じさせてくれます。

🎬 映画情報

  • 監督:廣木隆一
  • 原作:斜線堂有紀『恋に至る病』
  • 脚本:加藤正人、加藤結子
  • 主演・キャスト:
    • 宮嶺望:長尾謙杜
    • 寄河景:山田杏奈
    • 根津原あきら:醍醐虎汰朗
    • 善名美玖利:中井友望
    • 木村民雄:中川翼
    • 緒野江美:上原あまね
    • 氷山麻那:小林桃子
    • 大関華井:本彩花
    • 井出翔太:真弓孟之
    • 宮嶺義彦:忍成修吾
    • 宮嶺久美子:河井青葉
    • 入見遠子:前田敦子

あらすじ

youtube Asmic Ace公式チャンネルより引用

他人と深い関係を結ばないように生きてきた高校生・宮嶺望(長尾謙杜)。転校先の高校で、クラスの人気者・寄河景(山田杏奈)と出会います。誰もが好意を寄せる景とは対照的に、心に壁を作ってきた望は、最初こそ距離を置こうとします。

ですが、景の明るさ、周囲への気配り、そして何よりも「君なら守る」という視線に、徐々に惹かれていきます。2人で過ごす時間が増える中、景から「どんな私でも守ってくれる?」という約束を交わします。

ところがある日、同級生・根津原あきら(醍醐虎汰朗)が近所で遺体となって発見されます。さらにその後も不審死が相次ぎ、望は景への疑念を抱きはじめます。景がこの事件に関わっているのではないか――そんな恐ろしい問いが心に芽生えながら、望はそれでも“景を信じたい”という気持ちを捨てきれない自分に気付きます。

初恋、友情、疑惑、死――本作はその交差点に立つ若者の心の揺らぎを描き出します。観客は、彼らの“どちらか”を選べず、揺れ動くまま物語に巻き込まれていきます。

\映画「恋に至る病」公式ホームページも是非参照ください/
映画『恋に至る病』公式サイト


感想

サスペンスと恋愛の狭間で揺れる物語に感じた“振り切れていない”もどかしさ

まず率直に言うと、この作品は「恋愛映画か?サスペンス映画か?」という観点で言えば、やや曖昧な印象を受けました。感想としては、どちらかの側面をもっと振った方が、キャラクターも立ち、物語の骨格もより際立ったのではないかという、少し残念な気持ちがあります。

そもそも「初恋の甘酸っぱさ」を期待していたところへ、“同級生の不審死”が入り込み、“彼女は殺人を犯したかもしれない”という疑惑が加わることで、恋愛の純度が揺らいでしまっているように感じました。

とはいえ、この“中途半端”な構成だからこそ、「恋愛としての甘さ」と「サスペンスとしての刺激」が同居し、観ていてこちらの心がずっと揺れ続けるという効果もありました。つまり、「どっちつかず」と感じること自体が観客としての立ち位置を曖昧にし、物語に没入させる装置になっているのかもしれません。そういう意味では、“振り切れていない”もどかしさも、ある種の演出だったと捉えることもできます。

「心理学」「疎外感」「来世感」──現代にも通じるテーマの提示

次に、テーマ面で非常に興味深かったのは、単なる“恋愛”ではなく、もっと深いところで「心理学的な操作」「他人と関わらない疎外感」「そしてその疎外感から来世へ期待するという宗教的なモチーフ」などが含まれていた点です。

例えば、人気者の景が持つ“コントロール能力”とも言える人の心を掴む技術。その能力が、単なる社交性として描かれるのか、「他人を動かしたい」という欲動として描かれるのか、その境界が曖昧なところに、この作品の心理的面白さがあると思います。

景は、コミュニケーション能力が高く、人からの信頼を勝ち取るのが上手い女の子として登場します。そして、その能力を、心理学的なテクニックや、マインドコントロールに近いかたちで、人を“意のままに”動かすために使おうとしている――という可能性が映画の中で暗示されています。

主人公・望を想う気持ちも、果たして“純粋な好意”なのか、それとも“コントロールしたい欲”なのか、という問いが提示されるのです。
このようなテーマ設定は、現代のSNS社会、承認欲求、孤独、他者との距離感という観点からも、非常にリアルに響きました。つまり、若者に限らず、誰もが抱える“疎外感”や“他人に操られたい/操りたい”という裏の感情とリンクするのです。

ヒロイン・景の複雑な“想い”と、主人公・望の揺れる“信頼”

ヒロイン・寄河景というキャラクターに描かれている“好意/支配欲”という二律背反の葛藤には、非常に強い印象を持ちました。景自身、望への感情が「私が守る」「私が動かす」という気持ちから始まったのではないか、という自覚を自身にも持ち始める。その複雑な内面の揺れを、山田杏奈は表情の中に刻んでいました。

そして物語の中で、最後に景が望の持ち物を“宝物として保管”していたという描写があります。これが意味するところは、「やはりそれは支配欲ではなく、純粋な好意だったのではないか」という可能性です。

人の心というのは、明確に“好き”と“所有”と“操作”に分けられるものではありません。そこにあったのは、紛れもなく“誰かを想う気持ち”であったと映画は示唆しています。その瞬間、私自身も“ああ、彼女の気持ちは嘘ではなかったのだ”と気付かされ、胸が締め付けられました。

一方で、主人公・望もまた、景が亡くなった後に、逆に“信者”のように景を妄信、追い続けるかたちになります。景への疑惑を抱きながらも、彼女を想い続ける、その矛盾を抱えたまま生きていくという姿が、切なかったです。

最後には、景が大切にしていた望の持ち物を目にし、彼は改めて“あれは純粋な想いだった”と再確認する。そこから彼がどのように人生を歩んでいくか――答えは観る者に委ねられています。

この構造が、単なるラブストーリーではなく、「恋という名の病」にかかった2人の物語として、観る者の心に強く残りました。

演出・俳優陣・世界観について

長尾謙杜は、内気で壁を作ってきた宮嶺望というキャラクターを、“声にならない言葉”や“視線の揺れ”で表現しており、その繊細な演技が印象的でした。山田杏奈は、一見明るく優しい“寄河景”という役柄に、時折覗く冷たさと支配性を備え、そのギャップが恐ろしく、同時に惹きつけられました。

監督・廣木隆一の演出は、恋愛シーンにサスペンスの影を落とし、画面に常に“違和感”を刻んでいきます。背景音やカメラワーク、長回しの視線、そして沈黙の時間――これらが“安心できない恋”の雰囲気を醸成していて、気づけば身体が前のめりになっていました。映像全体が「信じてはいけないのではないか」「しかし信じたい」という二重の緊張に包まれていました。

世界観としても、高校という日常的な場面と、不審死や疑惑という非日常の接点が巧妙に描かれており、スクリーンの向こう側に「本当にここで起きてもおかしくない物語」が立ち上がっていました。

印象に残るシーン

  • 景が「どんな私でも守ってくれる?」と望に問いかけるシーン。夕暮れの部屋の中で交わされたその言葉は、後に重く、広がる影を帯びていきます。
  • 望が景の真意を疑い始める場面。淡い日差しの廊下、無音のチャイム、視線の交錯。信じていたものが音を立てて崩れていくような空気が漂っていました。
  • 景が望の持ち物をそっと保管していたことを知るシーン。それは“所有”でも“操作”でもなく、“想い”としてそこにあったという気づきが、一番胸を打ちました。
  • そして感動のクライマックス。恋という病が、終わるわけではないのに、終わらなければならなかった。そんな余白が、涙を誘いました。

総評:ピュアな初恋と暗い影ー“恋”は病か、それとも救いか

『恋に至る病』は、甘く切ない青春恋愛映画を期待して観ると、少し意表を突かれる作品かもしれません。サスペンス的な展開、心理的な揺れ動き、殺人疑惑……それらが恋愛の物語と隣り合わせになっており、どこまでが恋で、どこからが恐怖なのか、観る者自身も判別できなくなる設計になっています。しかし、そここそが本作の魅力と言えます。

恋とは、誰かを信じたい気持ちと、誰かを疑いたい気持ちが交錯するもの。支配したい気持ちと、大切にしたい気持ちが隣り合わせにあるもの。本作はまさにその“恋の病”を描いていて、観終わった後も頭の中でそこが共鳴していました。

キャラクターの心理的な深み、俳優の演技、そして映像演出。すべてが「ただのラブストーリーでは終わらせない」という意志を感じさせます。恋愛映画好きな方にも、サスペンス映画好きな方にも推薦できる一本です。

ただし、恋愛そのものの“爽快さ”や“純粋さ”を求める方には、ある種のざわつきや違和感を伴うかもしれません。本作を選ぶなら、「恋に揺れる」だけでなく、「恋に振り回される」自分の影まで覚悟して観ると、より深く味わえます。

※映画紹介についての一連の記事はこちらにまとめていますので、是非一読ください。

ABOUT ME
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昭和53年生まれ大阪出身。45歳で婚活開始し、24歳年下女性と結婚を前提に交際しています。その他、仕事についても20年以上務めた会社を退職、新たに士業への転身を行いチャレンジを続けています。同輩にとって益のある最新情報をお届けすべく、日々奮闘中です。趣味は映画と旅行。
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