映画紹介

『ドールハウス』映画レビュー:静かなる狂気が忍び寄る、邦画ホラーの真髄

2025年6月13日公開の映画『ドールハウス』は、主演・長澤まさみ、監督/脚本・矢口史靖、そして主題歌には、ずっと真夜中でいいのに。の書き下ろし楽曲が使われるなど、豪華な布陣で贈る“静かなる恐怖”を描いた国産ホラーだ。本作は、邦画らしい日常と非日常の境界をじわじわと侵食してくる不気味さに満ちており、ジャンルとしての「ホラー」に留まらず、“家族”というテーマの奥底を掘り下げていく点が秀逸だ。

🎬 映画の詳細情報

  • 公開日:2025年6月13日(金)
  • 主演:長澤まさみ(鈴木佳恵 役)
  • 共演:瀬戸康史(鈴木忠彦 役)、田中哲司(呪禁師 役)、池村碧彩(真衣 役)
  • 監督:矢口史靖(『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』)
  • 主題歌:ずっと真夜中でいいのに。「形」(作詞・作曲:ACAね)

あらすじ:人形に宿る、癒しと呪いの狭間

東宝MOVIEチャンネルより

物語は、5歳の娘・芽衣を事故で亡くした鈴木佳恵(長澤まさみ)とその夫・忠彦(瀬戸康史)が、深い悲しみの中で日々を過ごしているところから始まる。ある日佳恵は、骨董市で偶然にも芽衣によく似た人形を見つけ、その不思議な魅力に惹かれるように購入。以来、佳恵はその人形を“芽衣の代わり”として慈しむようになり、次第に明るさを取り戻していく。

やがて2人には新たな命、娘の真衣が生まれる。成長とともに人形は物置にしまわれ、家族の日常からは忘れ去られていくが、5歳となった真衣が偶然その人形を見つけて遊びはじめると、次第に家の中に異変が起き始める。

物音、誰もいない部屋からの声、真衣の不可解な言動。人形を手放そうとしても、なぜか必ず戻ってきてしまう。それは“執着”か、それとも“意志”か──。佳恵と忠彦は、人形の正体を探るべく専門家の協力を得ながら、その背景に潜む驚くべき事実へと迫っていく。

見どころ①:演技と演出が紡ぐ“じわ怖”の真髄

長澤まさみの演技は、まさに本作の屋台骨だ。娘を亡くした悲しみの中で、何かにすがりつくように人形を愛する姿は痛々しいほどリアルで、観る者の胸を打つ。最初は癒しとして機能していた人形が、次第に“狂気”の象徴へと変化していく過程における佳恵の心理の揺らぎを、彼女は一切の大げさな演技をせずとも体現してみせる。まさに“静”の演技が持つ底知れぬ怖さだ。

また、監督の矢口史靖は『ウォーターボーイズ』などの作品で知られるが、本作ではそのテンションを巧みにホラーへと転換。特に“何も起きていないが何かが起きそう”な、空白の時間の使い方が非常に巧妙だ。無音のシーン、長回し、わずかに動くカーテン……目に見えない何かを観客に強烈に意識させる“演出の間”が、邦画ホラーならではの緊張感を生んでいる。

見どころ②:人形の造形と映像美の対比

注目すべきは、“アヤちゃん”と呼ばれる人形のビジュアルである。リアルな質感と無機質な目、動かぬ表情。それが時に母性を引き出し、時に背筋を凍らせる。奇をてらったデザインではなく、むしろ「こういうの、本当にある」と思わせる絶妙なバランスが恐怖を増幅させている。

映像は前半部分では非常に抑制されたトーンで統一されており、昼間のやわらかな自然光に包まれた風景の中にも、どこか“濁り”を感じさせるような色彩設計がされている。これにより、日常の安心感と非日常の侵入という二面性が一枚の画面の中で同居し、観客を不安定な気持ちへと誘導していく。

見どころ③:ホラー×サスペンスの融合

本作はジャンルとしてはホラーに分類されるが、単なる驚かせ演出や心霊描写に頼るだけでなく、物語が進行するにつれて“サスペンス的な謎解き”の要素が強くなっていく。なぜ人形は戻ってくるのか? その正体は? 娘・真衣の変化は偶然か、それとも……?

クライマックスに至るまでの構成は非常に計算されており、観客は「これは霊の仕業か、人間の狂気か」と最後まで迷わされる。どんでん返しも用意されており、見終わった後には思わず最初から見直したくなる伏線の数々が仕掛けられている。

感想:親としての恐怖と、邦画ホラーの醍醐味

筆者個人の感想として、もうひとつ印象に残ったのは「親であることの怖さ」だ。子どもが無邪気に人形を抱えている姿は一見ほほえましいが、その“無垢さ”こそが逆に恐怖を呼び起こす。親が守るべき存在である子供が、ある日を境に“別のもの”と繋がりを持ち始めたら──そんな想像が、じわじわと精神を蝕んでいく。

また、スポットでは直接的で過激なホラー的アプローチはあるが、非ホラー部にも「言葉にできない不気味さ」が全編に漂っており、生臭い恐怖感を残す点は特筆すべきだ。派手なCGやジャンプスケア(突然の驚かし)にのみ頼らず、視覚と心理の“揺らぎ”を描くことに成功している。

まとめ:見終わった後に残る、“気づきたくなかった気配”

『ドールハウス』は、ホラー映画としての定番的な怖さを備えながらも、それ以上に「喪失」「執着」「家族の再構築」といった普遍的なテーマを内包している。そして何よりも、一見優しさと癒しの象徴である人形が、観る者の心の深い部分に触れてくるような“不気味な存在”として描かれている点が、物語に深みを与えている。

ホラー好きはもちろん、サスペンスや家族ドラマが好きな観客にとっても、多層的に楽しめる作品だ。観終わった後には、あなたも家の押し入れや棚に眠っている「古い人形」を、つい見直したくなるかもしれない。

※映画紹介についての一連の記事はこちらにまとめていますので、是非一読ください。

CTAサンプル

これはCTAサンプルです。
内容を編集するか削除してください。

RELATED POST