映画紹介

『事故物件ゾク 恐い間取り』映画レビュー|”取り憑かれる”恐怖の正体

2025年夏、日本のホラー映画界に新たな震撼をもたらしたのが『事故物件ゾク 恐い間取り』である。前作『事故物件 恐い間取り』のヒットを受け、原作・松原タニシの実体験を基にした”事故物件”シリーズ第2弾が登場。本作では、より深く、よりリアルに、そしてより狂気的に「事故物件に住む」ことの恐怖とその先にある真実が描かれている。

🎬 映画の詳細情報

  • 公開日:2025年7月25日(金)
  • 主演 :渡辺翔太、畑芽育
  • 共演 :吉田鋼太郎、山田真歩、じろう、岡田圭右、加藤諒、亀梨和也(本人役)
  • 監督 :中田秀夫
  • 脚本 :保坂大輔
  • 原作 :松原タニシ

あらすじ:”事故物件住みますタレント”過酷な挑戦

youtube 松竹チャンネルより引用

桑田ヤヒロは、福岡から夢を追って上京したタレント志望の青年。彼がテレビ局の企画で始めることになるのが、”事故物件住みますタレント”という過酷な挑戦だ。

優しく、繊細で、誰よりも霊に取り憑かれやすい体質のヤヒロは、テレビの視聴率やSNSのバズを求めて、次々と曰く付きの物件を転々とする。その中で目にするもの、感じるものは、単なる幽霊騒ぎにとどまらず、人間の業や過去の惨劇、そして現代社会が孕む闇そのものだった。

中田秀夫監督の真骨頂——”見せない”恐怖

『リング』でジャパニーズホラーの金字塔を打ち立てた中田秀夫監督がメガホンを取った本作は、恐怖の演出においても円熟味を増している。

物音、気配、視線、空間の歪み——いずれも目に見えないものを丁寧に描き、観客の想像力を最大限に刺激する。ときに抑制的で、ときに唐突に訪れる怪異現象は、ただのジャンプスケアでは終わらず、ヤヒロの精神を少しずつ削り、観客をも巻き込む。

特に、”必ず取り憑かれる部屋”や”降霊するシェアハウス”など、それぞれの事故物件にまつわる背景が極めてリアルで、多くの観客に「自分の身にも起こるかもしれない」と錯覚させる。

渡辺翔太や畑芽育、吉田鋼太郎ら、演技派が物語を深化

桑田ヤヒロ役で主演を務めるのは、アイドルグループ「Snow Man」の渡辺翔太。これが映画単独初主演とは思えないほど、情感豊かで繊細な演技を披露している。ヒロイン・春原花鈴役には畑芽育。ヤヒロを支える存在でありながら、彼女自身も過去に心の傷を抱えており、物語に奥行きを加えている。また、芸能事務所社長・藤吉清役には吉田鋼太郎。ユーモラスな一面を持ちながらも、冷酷さや業界の裏側を象徴するキャラクターとして、強烈な存在感を放つ。

さらに、山田真歩、加藤諒、シソンヌじろう、滝藤賢一といった演技派が脇を固め、物語のリアリティと深みを補強している。特に、原作者・松原タニシが本人役で登場するシーンは、虚構と現実の境界線を一瞬で曖昧にし、観客をゾクリとさせる仕掛けとして効果的だ。

“事故物件”とは何か——恐怖の本質に迫る

本作の最大の魅力は、単なるホラー映画としてのエンターテインメントを超え、「事故物件とは何か?」という哲学的な問いを投げかけている点にある。

事故物件とは、単なる過去に事件や事故が起きた家ではない。そこには未浄化の想念、解決されなかった物語、そして人間が見ようとしなかった真実が凝縮されている。

ヤヒロが出会う物件の数々は、それぞれが何らかの”語られざる過去”を持っており、その過去と向き合わなければ前に進めないという強いメッセージを内包している。そしてそのメッセージは、実は現代社会に生きる我々自身にも深く突き刺さるものだ。

実話ベースだからこその迫真性

原作は、松原タニシの実体験をもとにしたノンフィクション。だからこそ、本作が描く”恐怖”は決して大げさでも、誇張されたファンタジーでもない。

そこに描かれるのは、幽霊よりも怖い「人間の闇」と、それに触れた者が感じる”生き霊”的なプレッシャーであり、観客の胸をギュッと締め付けるようなリアルな不安感だ。

特にクライマックスでは、ある事故物件に隠された衝撃の真実が明らかになる。これがただの恐怖では終わらず、悲しみや憐れみ、そして社会への疑問へと昇華されていく構成には、強い感銘を受けた。

\前作の「事故物件」はAmazon Prime Videoで視聴可能!/
映画、TV番組、ライブTV、スポーツを観る【Amazon Prime Video】

主題歌と映像の親和性も高評価

youtube Snow Manチャンネルより引用

主題歌はSnow Manが担当。「SERIOUS」は、軽快ながらもどこかミステリアスな旋律が、作品の世界観と見事にマッチしている。また、撮影や照明、特殊造形のクオリティも高く、特にCGや音響効果においては、従来の邦画ホラーを一段進化させた印象を受ける。

細部にまでこだわり抜かれた映像演出は、ホラー映画ファンのみならず、映像美を愛する層にも大きな満足感を与えるだろう。

総評:ホラーを超えた”心霊ヒューマンドラマ”

『事故物件ゾク 恐い間取り』は、ホラー映画でありながら、そこに人間ドラマ、社会批評、哲学的思索を融合させた非常に完成度の高い作品である。

取り憑かれる恐怖の中で、取り憑く側にも理由があり、それを知ろうとする姿勢こそが、生きる上で最も大切な”共感”と”想像力”なのかもしれない。

そして、本作は、ただ恐怖が描かれるだけではなく、主人公やヒロインに関係の深いアノ人物が、本作を通しての謎を解くカギとなる、謎解きやサスペンス要素も盛り込まれており、最後の10分で一気に恐怖から愛を感じるストーリーへと変わる所も見どころだ。

ホラーが苦手な人でも、ラストにかけての人間模様やメッセージ性に心を打たれるだろう。2025年の邦画ホラーの中で、最も記憶に残る1本として、多くの人に推薦したい名作である。

最後に…、吉田鋼太郎、滝藤賢一、サイコー!

※映画紹介についての一連の記事はこちらにまとめていますので、是非一読ください。

RELATED POST