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『爆弾』映画レビュー|頭脳と狂気が交錯する“謎解き爆破劇”

アイキャッチ_爆弾

はじめに:秒読みの恐怖が幕を開ける

2025年10月31日(金)全国公開の映画『爆弾』。監督・脚本を手掛けるのは『キャラクター』などで知られる 永井聡。原作は、ミステリーランキングで2冠を達成したベストセラー作家 呉勝浩 の同名小説。

冒頭、酔った中年男が自販機暴行で逮捕される。この男が自称「スズキタゴサク」という謎の人物で、都内に仕掛けられた爆弾の予告を始める。1時間ごとに3回の爆破が行われるという宣告とともに、刑事たちは“爆弾”と“謎解きゲーム”に巻き込まれていく。

この作品は、単なる“爆破パニック”映画ではなく、謎を解く頭脳戦、そして犯人と刑事の知能のぶつかり合いが主軸となる“心理ミステリー×アクション”です。観客にも「自分だったらどうするか」という問いを突きつける構造が張られています。

🎬 映画情報

  • 監督:永井聡
  • 原作:呉勝浩『爆弾』
  • 脚本:八津弘幸/山浦雅大
  • 主演/キャスト:
    • 類家:山田裕貴
    • 倖田:伊藤沙莉
    • 等々力:染谷将太
    • 矢吹:坂東龍汰
    • 伊勢:寛一郎
    • 石川辰馬:片岡千之助(当該情報は公式とは若干異なる可能性あり)
    • 石川美海:中田青渚
    • 長谷部有孔:加藤雅也
    • 鶴久正名:僕蔵
    • 石川明日香:夏川結衣
    • 清宮:渡部篤郎
    • スズキタゴサク:佐藤二朗

あらすじ

youtube ワーナブラザース公式チャンネルより引用

物語は、酩酊状態で自販機と店員に暴力を振るった中年男が逮捕される場面から始まる。彼は名乗る「スズキタゴサク」と。

その後、彼が「霊感で事件を予知できる」と語り、都内に設置された3回の爆弾の存在を予告する。第一回目は秋葉原で爆破が起こり、その後1時間ごとに残り2回の爆破が行われるという。対するは、警視庁捜査一課の類家(山田裕貴)。類家は、スズキの予告をただの狂言として扱えず、スズキから出される謎めいた“クイズ”に答えながら、爆弾捜索と犯人解明を並行して進める。

クイズ形式で進む緊迫のやりとり、刻々と迫る爆破の時限、そしてスズキが放つ挑発的な言葉――「でも、爆発したって別によくないですか?」
見る者は、犯人と刑事、そして爆弾という三重の緊張に引き込まれ、時間とともに“誰が化け物なのか”という問いを抱えたままラストへと突入していきます。

\映画「爆弾」の公式ホームページも是非参照ください/
映画『爆弾』公式サイト


感想

ミステリーとしての謎解きが観客をぐいと引き込む

まず第一に、この映画の醍醐味は“謎解き”としてのミステリー要素です。スズキタゴサクが出すクイズ、類家がそれに応じて進む捜査、そして爆弾がいつどこで爆発するのかという時限の恐怖。この三方向の緊張が絶妙に絡み合っています。

観ている間、自分もクイズに参加しているような感覚に陥りました。スズキの出題を見逃してはいけない、見逃したら“爆破”が起きるかもしれない――そう思わせる演出が巧妙です。音の静けさ、時計の秒針、人の視線、カメラのゆらぎ。すべてが“解けなければ死に直結する”という錯覚を生み出します。

また、ミステリー好きな私としては、「答えがすぐ出るけど、真実は簡単には明かされない」という構造も好印象でした。よくある“犯人探し”ではなく、“犯人との頭脳戦”という形式が観る側の知的好奇心をしっかり満たしてくれました。

スズキの人をくった態度が強烈なキャラクター体験

次に印象的だったのが、スズキタゴサク役を演じる佐藤二朗の存在感です。彼の“人を馬鹿にしたような態度”は、まさに佐藤二朗の十八番とも言えるキャラクター性であり、そこが本作でも鮮やかにハマっています。観ていて、「こいつムカつくけど見てしまう」という複雑な感情が生まれました。

スズキが類家をからかい、挑発し、そして謎を仕掛ける姿には“余裕”と“狂気”が同居しています。観客としては、彼の態度に腹を立てながらも、その世界に呑み込まれてしまう怖さを感じました。彼の一言「でも爆発したって別によくないですか?」が画面を越えて響いてくるのです。

このキャラクターを、佐藤二朗がいかにして体現しているかを観るだけでも価値がありました。類家とスズキ、二人の頭脳のせめぎ合いが“人間対化け物”とも思える構図になっており、それが本作の骨格だと感じました。

類家とスズキ――“頭が良すぎる二人”が見せる鏡像的な関係

個人的な感想として、類家もスズキも――極論すれば――同じ種類の人間だと思いました。つまり「頭が良すぎる人間」。ただし、彼らの立場は違う。類家は刑事として世界との関わりを選び、スズキは犯罪者として世界からドロップアウトし、挑発を選んだ。

この二人が“合わせ鏡”のように設定されているところが、本作で最も興味深かったです。観ている間、「どちらが正しいのか」と考えるのではなく「どちらになるか」という問いを突きつけられました。類家もまた、周囲との知識・感性の差に不満を抱えており、その気持ちを拳銃ではなく“頭”で戦おうとする。

一方でスズキは、世界から見捨てられたという感覚を抱き、注目されたい・自分を見て欲しいという欲求と、また世界などどうでもいいという諦めの気持ちをもって行動に移している。

この構図は、“才能ある者が異質として排除される社会”の縮図のようでもあり、観終わったあと暫く頭から離れませんでした。映画としての“推理ゲーム”として純粋に楽しめると同時に、“頭脳と感性のずれ”というテーマを無意識に掘ってくるところが、本作をただのスリラー以上にしていました。

社会との断絶、注目されない者の叫びとしての“爆弾”

さらに感じたのは、スズキが爆弾を仕掛け、世間を恐怖に陥れようとする行為が“注目されない・認められない者の叫び”のようにも映るという点です。彼はホームレス時代、「人と関わりたい」「人に信じて欲しい」という気持ちを持っていたのかもしれません。そこから彼が受けた裏切りや傷つきが、爆破という形で爆発していったのではないか――

彼が犯す暴力には、単なる破壊願望だけではなく、「見て欲しい」「認めて欲しい」という渇望がにじんでいると感じました。そしてそれが、もう一人のキーマンである明日香に、道具のように扱かわれた瞬間、「もういいや・・・」という、人と世界への諦め、諦観へとつながったのではないか。劇中で類家も指摘していましたが、これは観客として胸がざわつく瞬間です。

“出る杭は打たれる”という言葉もありますが、人と違った才能や感性を持つ者が社会から排除される構図は、現代においても根深い問題です。本作はエンタメ作品でありながら、その深層にそうした社会的な問いを潜ませており、観たあとは自分自身の“居場所”について考えてしまいました。


総評:エンタメとして楽しく、知的刺激も残す傑作

映画『爆弾』は、見た目には“爆破ミステリー”ですが、その実、頭脳戦、心理戦、そして社会とのずれを描いた重層的な作品です。脚本・演出・演技すべてが高水準で、特に主演の山田裕貴・佐藤二朗という組み合わせが、本作の核=“謎と狂気の対峙”を強烈に体現しています。

観終わったあと、私は「もし自分が類家ならどう動くか」「スズキの挑発に乗ってしまったらどうなっていたか」をずっと反芻していました。そうした余韻を残す映画はそう多くありません。

ミステリー映画好き、スリラー映画好き、そして“映画で知的刺激も味わいたい”という方には、間違いなくおすすめしたい一本です。
劇場でスクリーンの前に座り、カウントダウンの秒針を感じながら、この“爆弾ゲーム”に挑戦してみてください。


こんな人におすすめ

  • 高度な謎解き要素とリアルタイムの緊迫感を求める方
  • 山田裕貴/佐藤二朗/染谷将太の演技を見たい方
  • 社会とのずれ、知性の孤立、才能と疎外といったテーマに興味がある方
  • 爆破パニック映画+頭脳戦+心理スリラーという複合ジャンルが好きな方
  • 見終わってから余韻に浸りたい映画を探している方

※映画紹介についての一連の記事はこちらにまとめていますので、是非一読ください。

ABOUT ME
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昭和53年生まれ大阪出身。45歳で婚活開始し、24歳年下女性と結婚を前提に交際しています。その他、仕事についても20年以上務めた会社を退職、新たに士業への転身を行いチャレンジを続けています。同輩にとって益のある最新情報をお届けすべく、日々奮闘中です。趣味は映画と旅行。
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